マジックリン、超熟パンに、オロナミンC。

 

 

 

 

日々生活する中で、誰しも一度は目にしたことのある、身近な・・・あまりに身近すぎて意識すらしないような工業製品を木彫り作品にし続けているのが、彫刻絵画作家の内堀麻美さんだ。

 

東急ハンズ新宿店で開催されたマニアフェスタでは、「木彫りしちゃうマニア」として作品を出展。

「え?こんなものが木彫りに!?」と、多くの来場者の目を引いた。

 

 

なぜ身近なものを木で彫り続けるのか、インタビューした。

 

 

 

 

「これは美術作品に見えますか?」

 

ー マニアフェスタで初めて作品を拝見して、すごく興味を惹かれて。木彫りっていうと、素朴で、古くから生活に密着してきたプリミティブなイメージがあるんですが、そこに現代的な工業製品が乗っかっている。そのギャップが面白いなと思って。

 

内堀:木ってずっと日本人に馴染みのある素材で、彫刻らしさがある。で、絵画といえば油絵の具というイメージがありますよね。美術のイメージが強い二つの要素がぶつかった時、出来上がったものはまさに美術だ、と思ったんですよ。

 

で、まさに美術っていうおこがましいものを、モチーフになり得ないものを載せることによって、果たしてそれは美術ですか?っていう、美術の概念というか考え方を問いたかったんです。これは美術作品に見えますか?っていう作品を作りたかったんです。
一番最初に作った木彫の作品はゴミ袋でした。

 

ー ある意味美しさと真逆にあるようなものを、ザ・美術というイメージの強い素材と道具を掛け合わせてつくって、どうだ、と問うということですね。

 

内堀:それが今でも続いているコンセプトですね。

 

ー ずっとそういう感じの作品だけをつくっているんですか?

 

内堀:そうですね。スーパーに売っているようなものは、みんなが親しみのあるもの、見慣れているものなので、とっかかりになりやすいと思っていて。

好きだから、というのも一番にあるんですけど、美術に興味がない人とか、美術って難しくてよくわからないという方も、見たことあるものには反応してくださるんです。

実物よりちょっとサイズを大きくしたりして違和感を出して。それが偉そうにポンと展示台に置いてあったりすると、なんか滑稽じゃないですか。

 

ー 作品を発表するときの肩書きはどうされているんですか。

 

内堀:彫刻絵画って呼んでいます。木彫したものは、割とキャンバスに近いと思っていて。

絵画って、だまし絵じゃないですか。平面なのに奥行きや時間があるように見せたり、色をぶつけ合ってハレーションで人の目に訴えかけたりして。

それに対して、立体は実在する塊、物質、存在感がありリアルなもの。リアルと騙したものとが合わさったものということで、彫刻絵画です。存在しているのに嘘のもの。

 

ー 木彫りの質感や手触りが残っていることで、モチーフになる工業製品とのギャップが強調されるのが面白いなと思いました。木が少し粗っぽさを残しているのも意図があるんですか?

 

内堀:そうですね・・・絵も下手くそだし、木彫も上手くない時点でやり始めたので、下手くそと下手くそが混ざって、いい下手くそになっているというか。可愛くなりますし。超絶技巧で見たままを作りたいわけじゃないんです。

技術を見せたいわけじゃないので、ちゃんとつくっていないという。これは美術と言えるものですか、という作品を作りたいので、ちゃんとつくっているものと対局しています。

 

ー モチーフはどういう基準で選ぶんですか?

 

内堀:ピンときたらモチーフにしています。友達に「これも彫れるんじゃない?」と言われることがあるんですが、彫れない場合もあるんです。

 

ー ピンとくるものと、彫れないものの違いは何なんですか?

 

内堀:馴染みのあるものやロングセラーなものがいいですね。製品が記号化し、みんなにとって共通認識のあるものをモチーフにしています。パッケージがおしゃれなものや、最近のものは彫れないです。

 

ー 多くの人にとって普通のものがいいということですね。形としての面白さはあるんでしょうか。

 

内堀:それは二の次ですね。彫ってみて「やべ、難しい」っていう場合もあります(笑)

 

日常と地続きな制作活動

ー 大学は美大ですよね。いつ頃から美術の道に進もうと思っていたんでしょうか。

 

内堀:夢ってなに?将来なりたいのってなに?と言われた時から、美術をやりたいって言っていました。学校でも図工の時間がすごく好きで。

なので逆に、美術の道に進もうという強い決意があったわけじゃないんです。高校も美術系の学校に通って、周りにも美術が好きな友だちがいて、それが当たり前だったんですね。

ごく自然に美術の道に進んだので、モチーフも無理矢理美しいものを発見しようとするのではなく、身近にあるものなのかな、という気はしていますね。

 

ー 美術という行為自体が、日常と地続きの感覚なんですね。現在はデスクワークのお仕事をしながら制作活動を続けていると伺いましたが、あえて職業にしなかったのは理由があったんですか?

 

内堀:アーティストじゃ食っていけないからですね。

 

ー できるもんなら作家一本でやっていきたいと思っていますか?

 

内堀:できるもんならしたいですけど、できない理由はわかっているんですよ。モチーフを探し続けられないっていうのが一番で。これを彫りたいっていうものが常にあるわけじゃないんです。

 

ー 作家って、日常生活を送っているからこそのリアルな体験があって、それを作品に転換できるというか、ストレス自体いい刺激になっている場合もあると思います。内堀さんはそういう面はありますか?

 

内堀:あると思います。スーパーの袋の作品を作ろうと思ったのは、デパ地下でアルバイトをしている時に、持っている人の袋が面白いと思ったのがきっかけでした。ゴミ箱を彫ったのも、アトリエにゴミ箱がずっと置いてあって、あれだけやけに水色だなあと思って気になって彫りました。

日常からヒントをもらっているんですかね。普通のOLやっている方が、美術に興味がない人でもとっかかりになるものを発見しやすいのかな、と思います。

 

反応する心が共鳴し合う、マニアフェスタ

ー 内堀さんは普段、作品をギャラリーで展示されていますが、前回のマニアフェスタの会場は百貨店で、普段ギャラリーに行かないような方も来場していました。そういうリアクションの違いは感じましたか?

 

内堀:ギャラリーではわざわざ見に来てくださったり、通りがかりでもアートに興味があるから見に入って来た方がメインでした。そういう方々は経験豊富なので、お話していて「あ、そういう風に見えるんだ」という刺激はありました。

マニアフェスタでは、「わー、すごーい、おもしろーい、知ってるこれー!」っていう、より素直な感想をくださるのが楽しかったですね。でも私が考えていることを汲んでくれたり、それどころか「私ってこんなことを考えていたんだ!」というコメントをくださる方もいました。

 

 

ー 確かに皆さん、単純な驚きで見ていましたね。「なにこれ!?」って。

 

内堀:でもマニアフェスタ自体も変でしたよね(笑)

 

ー 確かに、ハンズの中で異色な空間でしたね(笑)

 

内堀:イベント自体異色でしたが、出展者も来場者も、反応するセンサーが備わっている人たちがいたから面白かったです。

マニアフェスタに参加される人たちのお話を聞いて見たら、美術を学んでいない方が結構いたことにもびっくりしました。日常にあるものに反応したりウキウキする気持ちって、どこで備わってきたの?育ったの?って思って。

それぞれが好きなことを楽しんで、反応している心が楽しいじゃないですか。マニアフェスタにいたみなさんはすごく刺激的でした。みんな反応する心を持っているので、共鳴し合っていて。カオスだーと思って(笑)

 

ー そうだったんですね。でもピュアな楽しさだけを続けるのって難しいことがありますよね。これ意味あるのかな?何か意味を加えた方がいいのかな?って悩んじゃう時期はなかったんですか?

 

内堀:大学生の時に考えた時がありました。でも待てよ、楽しいと思っているってだけで十分コンセプトじゃないか、と思いました。作っていることが楽しいとか、ピュアなことがコンセプトみたいな時代になってきていると、私は思います。

見たままの美しいものを表現すればいいじゃんっていう裸の心。

 

ー ズバリと核心を突きますね。内堀さんは素直で楽しいってことがコンセプトなんですね。

 

内堀:人間って、唯一娯楽ってものを堪能しているじゃないですか。美術って人間にしかできない、ってことは娯楽じゃないか、娯楽なら楽しんだもの勝ちだって。

そう思ったのが東日本大震災の時でした。
アートボランティア団体に参加して被災地へ行って、絵の楽しさを通して心を癒そうという活動があったんですが、実際に行ってみたら、現地の方にとってはそういうことをしている余裕はなくて。

その時に、ああ、そうか、美術ってそんなものなんだ、って思っちゃって。生活があって、心の余裕があって、その上に娯楽がくるので、美術って娯楽でしかないんだなって。

でも娯楽って人の心を救うじゃないですか。はみ出たものを楽しまなくてどうするの、って思って。その時に、初めての作品であるゴミもできました。

 

ー お話ししていて、気負いがなく軽やかだなと思ったのはそういうことだったんですね。

でも美術って、娯楽である一方で、そのベースとなる生活や人の視点を変えうる力がありますよね。視点が変わると日常の見え方が変わり、選ぶものが変わり、生活が変わる。

マニアフェスタもまさに、いろんな人の視点がインストールされることで、普段見ている日常風景の見え方が変わる場だと思いました。

 

彫刻絵画作家・内堀麻美
Instagram https://www.instagram.com/uchiasa2/?hl=ja
Twitter https://twitter.com/UCHIBORIASAMI

 

筆者 村田あやこ(路上園芸学会)
聞き手 松澤茂信・齋藤洋介(東京別視点ガイド)、村田あやこ