先日Twitterで、こんなツイートが流れてきた。

 

 

けんちんさんといえば、団地愛好家として知られている方。

10年以上前から、関西を中心に、トークライブやツアー、ポッドキャストなど、様々な角度から団地の魅力を伝える活動をしている。

今までけんちんさんのプレゼン効果で団地に移り住んだ人は150人以上。

 

▲けんちんさん

 

▲団地愛好家としての活動

 

また、ドムドムハンバーガーを食べて応援する「ドムドム連合協会」の活動でも、様々なメディアに取り上げられた。

 

 

▲ドムドムハンバーガーを食べて応援する「ドムドム連合協会」

 

そんなけんちんさんのツイートを見ていると、最近各地の電気風呂へ足しげく通い、ついには東京の公衆浴場(銭湯)に設置されている全電気風呂168ヵ所を制覇したという。

2019年2月6日(風呂の日)には、電気風呂の入浴手順や各電気風呂のレビューをまとめた『電気風呂御案内200(仮題)』を、八画文化会館から出版予定とのことだ。

 

「けんちんさんが、なぜ電気風呂に?」という興味もさることながら、「電気風呂」そのものが未知の世界。銭湯で見たことはあるけれど、積極的に入ったことはない。なんならちょっと怖いイメージすらある。でもけんちんさんの手にかかれば、電気風呂の魅力がわかるかもしれない。そう思って、話を聞いた。

 

 

1年間の“電浴”回数は250回超え!

 

ー先日Twitterで、東京都の浴場組合のホームページに載っている電気風呂168ヵ所を全制覇したという書き込みを拝見しました。いつから回り始めたんですか?

 

けんちん:4月に単身赴任で東京に来てからです。

 

ーじゃあ、8ヶ月位で168箇所!けんちんさんのツイートを見てると、同じ場所を再訪したり、東京以外の電気風呂にもいかれてますよね。ほぼ毎日のペースで入ってるんですか?

 

けんちん:毎日ですね、はい。今年は11月末までで250回くらい入りました。

 

―すごいですね!最初に電気風呂に行こうと思ったきっかけはなんだったんですか?

 

けんちん:前に重たいものを運ぶ仕事をしていた時、一回腰を痛めたんですよ。整骨院に行ったら電気あててくれるじゃないですか。で、銭湯に行くと電気風呂があるから、これって効くんかな、みたいな軽い気持ちで入りました。

その時入った電気風呂が、めっちゃ強かったんですよ、後から考えたら。電気風呂ってこういうもんなんや!ってずーっと入ってたから、強い電圧全然大丈夫なんです。そこで鍛えられてるので。

そこれからは、銭湯行ったら電気風呂にはかならず入る、みたいな自然な感じでした。

 

ー自然と接してたわけですね、日常の一部として。

 

けんちん:はい。銭湯に行くのが好きで、いろんな銭湯に入ってたんですよ。

ある時、電気風呂って銭湯によって強さが違うなってふと気づいて。いろんな電気風呂入ったら面白いんかなーって、ほんならちょっと回ってみようと、手始めに10個、20個回ったら面白かった。それが去年です。

 

 

 

電気を浴びると悩みがどうでもよくなる

 

ー実は電気風呂の良さがまだ分からなくて。ネットで検索すると、関連ワードで「怖い」とか「痛い」とかいう言葉も出て来て、ネガティブなイメージを持っている方もいると思うんですが。

 

けんちん:入り方のコツがあるんです。手順通りに入るのが一番大事だと思ってます。初めての人は「電気風呂パワー」の強いところにいきなり入るのではなく、弱いところから入りましょう。

 

ー「電気風呂パワー」ってなんでしょうか?けんちんさんのTwitterで、電気風呂のレビューに毎回出てきますよね。

 

けんちん:「電気風呂パワー」っていうのは、ただの電流の強さじゃないんですよ。電気風呂には3要素あって。電流の強さはもちろん大事なんですけど、それ以上にポイントは電極と電極の間の幅!

 

ー電極の幅!?

 

けんちん:電極と電極の幅が広かったら、いくら電流が強くても真ん中にいれば大丈夫なんですね。逆に、電流が弱くても、幅が狭かったら結構しんどい。

あとは湯の温度も結構関係あります。熱すぎたら長いこと入れない。その総合評価が電気風呂パワーです。

 

 

ー入る時のコツはありますか?

 

けんちん:コツは、最初に指先を入れないこと。

 

ー指先を入れない?

 

けんちん:指先が一番敏感なので、敏感なところで触らないっていうのが一番のポイントです。まず鈍感なお尻から入って、少しずつ体の位置を変えていって、安全地帯を探していくのがコツです。

できる限り、電極から出ている電流が一番弱いと思われる部分に入っていくっていうのが、はじめの一歩ですね。

一番遠いところから攻めるっていう基本さえ守っていたら、電気風呂パワー1とか2の電気風呂だったら余裕で入れるはずです。

 

ーなるほど。で、徐々に体を慣らしていくっていうわけですか。

 

けんちん:そうです。ただ、本当に体に合わない人もいるので、電気風呂パワー1で無理だったら、もう無理です。やめてくださいって言います。

ただ、食わず嫌いの人もまだまだいるはずなんで、そういう人にはやっぱりお勧めしたい。何より電気風呂の効能がやばすぎて。みんなこれ知ったら人生観変わんのになって。

 

ーどう変わりましたか?

 

けんちん:まず肩こりが劇的にマシになりました。前は寝る前に肩凝っててしんどかったんですけど、かなり改善したような気がします。

 

ーたしかにコリに効きそう

 

けんちん:そして一番の効能は、悩みがどうでもよくなるってことです。仕事でしんどいことがあっても、電気浴びたら、あーどうでもよかったーってなる。あー、なんか、ちっぽけなことで悩んでてんなーって。

あと、電気風呂に入ると結構疲れるんですよ。だから家に帰るとすぐ寝られます。

実は今、電気風呂について書かれた医学書を調べてて。医学書の中にも「ヒステリーに効く」とか「不眠症に効果がある」とか、ちゃんと効能が書かれているんですよ。

 

 

コーンフロスティのケロッグ博士の発明だった!?

 

ー電気風呂について色々と調べていらっしゃるんですね。

 

けんちん:国会図書館で電気風呂関連の本を調べました。Wikipediaに電気風呂の歴史が載っているんですが、歴史が結構飛んでいて。

しっかり電気風呂の歴史を調べた人は今まであまりいなかったのかなと思うし、そこをちょっと解明したいなと思って。調べたら色々出てきました。

まず、ケロッグって聞いたことありますか?

 

ーはい、コーンフロスティの。

 

けんちん:はい、諸説色々ありますが、コーンフロスティを考えたケロッグ博士が、電気風呂を考案したと言われています。

ケロッグ博士は、長生きのためにいろんなことを考えたマッドサイエンティストで、その発明品の一つが電気風呂だったんです。

日本では昭和8年に京都の船岡温泉というところに、国の認可として初めて電気風呂が設置されました。

ただ大正11年の新聞で、神戸の風呂屋が電気風呂を設置したという記事を見つけたので、電気風呂自体は、大正時代後半にはある程度広まっていたようです。

戦前は、電気風呂が設置されているのは関西中心だったようです。

 

 

▲大正時代の新聞記事

 

ーそんな昔からあったんですか。

 

けんちん:明治時代すでに、電気を浴びたら体にいい学説がドイツの医学書から導入され、広まっていったようです。文明開化にともなって電気で暮らしを良くしていく動きがあったんです。

明治時代の医学書を見ると、今の電気風呂とほぼ同じような仕組みの図が載っていました。

 

ー戦後はどう広まっていったんですか?

 

けんちん:戦後すぐも、日本には大きい家以外でお風呂ってあまりなかったんですね。そこで影響を与えたのが「団地」です。

昭和30年代に公団住宅でお風呂が全戸設置され、昭和40年代後半になると、公営住宅にもお風呂が設置できるようになっていきます。家の中にお風呂があるのが当たり前の時代になっていきました。

 

そうなると大打撃を受けたのが銭湯で。家のお風呂にないエンタメ性が求められるようになりました。

そこで設置されたのが、露天風呂、ジェットバス、電気風呂だったんです。

そうやって昭和40年代後半から、一気に関東でも電気風呂が広まっていったと考えています。もともと関西には、坂田電気工業所(以下、坂田)や小西電機(以下、小西)という電気風呂のメーカーがありました。関東の電気風呂の8割以上は小西です。

でも、僕が個人的に好きな電流は坂田の電気風呂です。

 

 

安定感の小西、人間味の坂田

 

ーメーカーで全然違うもんなんですか?

 

けんちん:全然違います。坂田の電気風呂はバネで弾く半自動式なんですが、小西の電気風呂は電子制御式なんですよ。浴びた時の電気の感じが全然違います。

 

ーどういう風に違うんですか?

 

けんちん:坂田は完全にランダムです。電流が強い時もあれば弱いときもある。

この間入った銭湯では、いつもと波動が違って、出てないと思ったら、いきなりドスンってきて。多分銭湯の方がたまたま弾いてたんですよ。パチンって弾いた時に電流が出てきて、それが僕の肩に当たったんです。そんな仕組みなんです。

 

ー体で直にわかるんですね。

 

けんちん:坂田って、銭湯によって設定が全然違うので、100軒あったら100通りの味わいがあると思います。湯のコンディションによっても感じ方が違います。

 

ー坂田も小西も、会社はまだあるんですか?

 

けんちん:坂田はもうないです。なので坂田の電気風呂は、これからなくなる一方です。

安定感があって壊れにくいのは電子制御式の小西なんですけど、人間味があるのは坂田で。だから僕は、今のうちに坂田の電気風呂が置いてあるところを調べて行きたいと思ってます。

 

先日、銭湯愛好家の松本康治さんの著書『旅先銭湯』で、山梨県の石和温泉に坂田の電気風呂注意看板らしきものを見つけて、行ったら坂田だったので、めっちゃ感動しました。

首都圏から一番近い坂田や、と思って。関東にはほとんど設置されていないので…。(※その後、神奈川県藤沢市に設置されているのを確認しました。)

 

ー坂田の電気風呂に入るために、山梨まで行かれたんですね。もともと電気風呂の仕組みは海外から導入されたものと伺いましたが、海外製の機械はあるんでしょうか。

 

けんちん:電気浴ができる医療機器としてはあるようですが、お風呂に設置される機械としては、今のところ知らないです。電気風呂っていうのは、日本固有の文化ではないかと考えています。

 

 

自分が楽しかったことや得したことを広めたい

 

ー2月に出版予定の本はどんな内容なんですか?

 

けんちん:東京の168の電気風呂の一覧表を作りました。日替わりで男女片方にしかないところが結構あるんですよね。それがわかるようにしました。

あとは電気風呂パワーと、水風呂の有無、浴槽の幅が広いか狭いかも入れました。

 

ーめちゃくちゃ楽しみですね。本を片手にいろんな電気風呂を巡りたいです。出版の先の展望として、やってみたいことはありますか。

 

けんちん:銭湯ファンの間にも、電気風呂を広めたいです。銭湯好きの方は結構いるんですけど、サウナや水風呂は好きでも、電気風呂はちょっと、って人が多いように思うんです。

 

ー確かに電気風呂について語っている人って、聞かないですね。

 

けんちん:今これだけストレス社会でしんどいって言われている中で、そのストレスを一気に発散できるものがあるっていうのを、もっと知ってもらいたいし、医学的にも効能があるっていうのが明治時代から論文にまとめられているのに、今までこんなにおざなりにされてきたのが勿体無いと思って。

電気風呂って、海外で言えば医療機器となっている国があるのに、日本では医療認可を取ってないから、銭湯にいっぱいある。それが不思議な状況だと思います。

 

ーけんちんさんのこれまでの活動を拝見していると、団地でも、電気風呂でも、実際に住んだり入ったりして体験する一方で、文献にあたったりと、様々なアプローチで多面的に掘り下げようとしているのがすごくいいなと思いました。

 

けんちん:僕は自分自身が得したことや楽しかったことを、色々な人へ広めたいという想いがあります。

 

ーあー、確かにそんな感じしますね。けんちんさん自身のためである一方で、人のためにやってるっていう。

 

けんちん:自分自身が納得したモノを人に薦めて、誰かが得して喜んでもらうことが嬉しいから。生存価値っていうか、生きてるなーって感じるのはそういう時なんです。

 

 

けんちん
HP:ようこそ!電気風呂の世界へ / ゲタバキアパート

 

筆者:村田あやこ(路上園芸学会)
聞き手:松澤茂信(東京別視点ガイド)、村田あやこ(路上園芸学会)