『真相配達株式会社』(前庭みそか)

“真相配達株式会社では、あなたの為の『真相』をお届けします———。

殺人・窃盗・横領・浮気、罪の大小を問わず疑われて困ったときに手紙を送っていただければ、三日後にあなたを助けるための『真相』を記した書類をお届けします。

もちろん、あなたが真犯人だったとしても……。

表題作を始め「四十四人の依頼人」「間違った使い方」「真相対名探偵」「死者からの依頼」など六編を収録。”

 

思わず手にとって、続きが読んでみたくなる内容だが、実はこの本は、実在しない。

ツイッターのリプライで思い思いに送られてきた画像で作られた「ない本」だ。

 

 

昨年秋にツイッターにアップされ始めてから、瞬く間に話題になり、今やフォロワーは6万人超。

「ない本」の作者であり、ウェブサイト「ひざかけちゃーはん」を運営する能登たわしさんに、お話を伺った。

 

 

なんてことない日常スナップから生み出される、架空の物語

 

ー「ない本」を始めたのは、どれくらい前からなんですか?

 

能登たわし(以下、能登):9月の終わりからなんで、いま4ヶ月目ですね。

 

ーまだ4ヶ月なんですか。こんなことになるっていうのは想定していましたか?

 

能登:全く。「ひざかけちゃーはん」っていう自分のサイトの企画として始めたんですが、ちょっとウケるといいな、くらいの感じでした。

 

ー最初はひとネタのつもりで始めたんですか。

 

能登:そうです。継続してやりたかったんですけど、こんなに忙しくなるとは思っていなかったです。

 

ー今まで何作くらい作られたんですか?

 

能登:ツイッターにあげていないのも含めて、50冊くらいになりました。

 

ー日常のスナップとか、机の上の風景とか、なんてことない写真が、切り取り方とデザインでこうなるんだ!っていう魔法のようなびっくり感が面白いです。

どういう思考の過程であそこまでたどり着くんですか?

 

能登:写真を先に選んでから、タイトルやあらすじを決めています。

 

ー写真は投稿してもらってるんですよね?

 

能登:はい。最初の2作だけ、ひざかけちゃーはんの身内から集めたものなんですけど、あとはリプライで送っていただいたものから選んでいます。

あんまり綺麗すぎる写真だと、その上に文字を並べるだけでかっこよくなっちゃうので、ほどほどに生活感のある写真の方がいいなと思って選んでます。

 

ーたしかに、元の写真に生活感があるほうが、ブックカバーになったときのギャップが目を引きそうですね。

 

▲「ない本」の実物。これが実在しない本だとは!

 

 

「ない本」は、大喜利の「写真で一言」

 

能登:タイトルはだいたい、写真を見たイメージから、連想ゲーム的に作って行く感じです。タイトルと著者名を先に決めてからあらすじを考えています。

 

ー大喜利の「写真で一言」と同じ感じですね。

 

能登:はい、そうですね、完全に。大喜利のつもりでやってます。

 

ータイトルは、これまで読書してきた中で「こういうタイトルってあるよな」っていう、あるあるが入ってるんですか?

 

能登:あらすじは、あるあるが結構入っていますが、タイトルはそんなに…タイトルってなんでもありなんで。

 

ートーストにチーズが乗ってる写真を使った『今日だけはとろける布団で眠りたい』っていうタイトルがあったじゃないですか。チーズから布団っていうのはどういう発想だったんですか?

 

能登:たまたま別のイベントで「オムライスの布団をかけて寝る」っていうイラストを描いている方がいて、それが頭の中にあって。写真が送られてきた時に、トーストがチーズをかぶっているのが掛け布団みたいだなっていう発想です。

 

 

ーなるほど〜。結構大喜利っぽいですね。筆者の名前は、そのタイトルを書きそうな人ってことで決めてるんですか?

 

能登:ものにもよるんですけど、関連している場合もあれば、その時TVに出てた芸能人をもじったりとか、本当になんでもない場合もあります。

たとえば国分太一がその時TVに出てたから、「○○太一」っていう名前にするとか。

 

ーそういう決め方もするんですね。

 

能登:関連しているものだと『泥酔探偵』っていうタイトルにした時に、お酒飲みの人って言ったら中島らもかな、と思って、「中島らも」をアナグラム的に入れ替えて、「羅門志麻奈」っていう名前にしたことがありました。

 

「ない本」作りが仕事の修業に

 

ーリプライで投稿された写真を選んでから、あらすじを考えて、デザインが出来上がるまで、どれくらいの時間をかけているんですか?

 

能登:だいたい3時間か、早ければ2時間ぐらいですね。

 

ーすごいスピードですね。写真を選ぶときは、見た時点で結構ピンとくるんですか?

 

能登:あんまりきていないですね。選択肢がありすぎると、その先に考えられなくなっちゃうんで。とりあえずコレ!って決めて、手元に保存してから考えています。

 

ーものすごい数のリプライがきてますもんね。決め打ちというか、よし、これだ!って感じなんですね。

 

能登:ありがたいことにたくさんリプライをいただいています。無限に選択肢があるので、ちょっと思いつかないからやめとこうってなると、いつまでも進まなくなっちゃうので。

 

ー「ない本」のアイデアに至った経緯ってなんなんでしょうか?

 

能登:色々あるんですけど、一番近いものだと、「ひざかけちゃーはん」で、宇野なずきさんと企画した「くそひともじ」です。

なんでもない写真を送ってもらって、その写真に宇野さんが短歌をつけるっていうのを1、2年くらい前からやっていて。

自分は短歌はできないけれど、同じようなことができないかなとはずっと前から考えていて、小説ならできるなって思ったのがきっかけです。

 

ー“ない”何かにくっつけて形にする、っていう。

 

能登:「写真で一言」を延々とやってられるシステム、みたいな。

 

ーブックカバーっていうフォーマットが面白いですよね。ディテールまでこだわっていて。

本屋さんで本を見て「あ、これ、ない本で使えるな」って思うこともあるんですか。

 

能登:ありますね。でもやっぱりプロの仕事は違うなって思います。

ちゃんと商業的にやっているプロのデザインは、クオリティというか、見栄えが全然違うなっていう。

 

ー「ない本」は、デザインの勉強も兼ねてるんですか?

 

能登:そうですね。仕事が変わってデザインをする必要があるので、多少やっぱり練習はしないと追いつけないので。

 

ーお仕事はどんな内容なんですか?

 

能登:求人広告を作ってます。3時間後…すごいときは1時間後に欲しい、みたいな世界で。

写真も、カメラマンが撮影したものではなく、普通にスマホで撮った写真が1、2枚送られてきて、2時間で作る場合もあります。

 

ーまさに「ない本」でやっていることと近いですね。

 

 

ルーツはミステリー

 

ー「ない本」の前は、どういう活動をされてたんですか?

 

能登:中学や高校の頃は、オカルトとか都市伝説のサイトを読むのが好きで、たまに自分で書いて投稿したりもしていました。

あとは「ウミガメのスープ」っていうゲームを夜通しやっていました。

あるレストランに男がきて、ウミガメのスープを頼んで。これは本当にウミガメのスープですか?ってお店の人に確認して、そうですよって言われて帰った後に自殺しちゃった。

男はなんで自殺したんだろう?っていうのを、参加者が「こういうことですか?」って質問して、“はい”か“いいえ”で教えてもらって、真相を探っていくっていうゲームです。

バリエーションが無限に作れるので、みんなで出題しあっていました。

 

ーその頃から、物語作りが好きでずっとやっていたんですね。

 

能登:そうですね。意識して「物語づくり」をしてた感じではなかったですけど。あとは、本を読むのが好きでした。

 

ーどういうジャンルが特に好きだったんですか?

 

能登:小説、ミステリーが特に好きでした。たとえば米澤穂信さんとか。

 

ー大学の頃はネットで書いたりとか発信はしていたんですか?

 

能登:大学の頃はネット活動はほとんどしていませんでした。

ミステリーが好きでミステリー研究会に入っていたので、ずっとミステリーを読んだり、ミステリー小説を書いたりしていましたね。

 

ー「ない本」のあらすじにミステリーっぽいのが多いのは、そういうことだったんですね。

 

能登:やっぱり自分のジャンルなんで。

 

ーあらすじを見てると、その先の展開が気になるものが多いんですけど、能登さんの中で、その先こうなるっていうのはあるんですか?

 

能登:全くないやつもあるんですけど、大体ありますね。ものによっては「こう書きたいな」っていうプロットまでは作っていたりするので。

 

ーそうなんですね。それは後々書く予定なんですか。

 

能登:書きたいなとは思うんですけど、「ない本」の魅力って読まなくてもいいことなんで(笑)

 

ー確かに。あったら「ある本」になっちゃいますね(笑)。いまも小説は書くんですか?

 

能登:「ない本」が落ち着いたら、ミステリーを書いて、また賞とかに出そうかなと考えています。

書いてる途中でほったらかしになってるのもあるんで。

「ない本」で、いろんなものの発想を練習して学んで、もう一回小説を書いて生かしたいなと思っています。

 

ー能登さんが書くってなったら、読みたい人がけっこういそうですよね。

あの「ない本」の人が、「ある本」を書いた、みたいな。

 


 

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【イベント】

ひざかけちゃーはん新年会2019
~「ない本」はウケたけど、これから僕たちどうしていこうか~

2019年2月11日(月・祝)
OPEN 12:00 / START 13:00
前売¥1,800/当日¥2,300(共に飲食代別・500円以上の1オーダー必須)

 

【出演】
能登たわし
江ノ島茂道
逆襲
又来シュウ

【ゲスト】
むかない安藤

青崎有吾

原宿

▼ない本特別制作
たばね(出演あり)
トルー(出演未定)
北向ハナウタ(出演未定)

 

■チケット予約
https://eplus.jp/sf/detail/2831840001-P0030001?P1=0163

 


 

能登たわし

わたしたわしじゃないじゃない http://pasttawashi.hatenablog.jp/

ひざかけちゃーはん https://friedrice.work/

Twitter https://twitter.com/nottawashi

 

聞き手 松澤茂信(東京別視点ガイド)・村田あやこ(路上園芸学会)

執筆 村田あやこ(路上園芸学会)