建物に道路、車、交差点……

まちに出てあたりを見渡した時に、パッと目に入ってくるもののほとんどは、人間によって意図的・計画的に設置されたものである。

しかしまちには、人工物のスキマからはみだすように、人の意図と関係なく存在するものもある。その代表格が、植物だ。

 

舗装のひび割れやマンホールの穴、石垣の境目などに視線を向けてみると、驚くような小さなスキマで、こぼれ種などから自生した緑が顔を出していることがある。

路上で人が思い思いに育てる鉢植えだけでなく、まちのスキマで自生する植物や、鉢から大きく成長してしまった植物などを「路上園芸」と称し、長年観察し続けるマニアをご紹介する。

 

【インタビュー】はみだす植物から見えてくる、まちのスキマや余白(路上園芸鑑賞家・村田あやこ)

 

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村田あやこ・プロフィール

福岡生まれ。街角の園芸活動や植物に魅了され、「路上園芸学会」を名乗り撮影・記録。書籍やウェブマガジンへのコラム寄稿やイベントなどを通し、魅力の発信を続ける。著書に『たのしい路上園芸観察』(グラフィック社)。寄稿書籍に『街角図鑑』『街角図鑑 街と境界編』(ともに三土たつお編著/実業之日本社)。2016年よりデザイナーの藤田泰実とともに路上観察ユニット「SABOTENS」としても活動。組み合わせると路上園芸の風景が作れる「家ンゲイはんこ」の制作や、国内外での作品展示・グッズ販売を行う。

Twitter & Instagram: @botaworks

Webサイト: https://botaworks.net/

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――「路上園芸」が気になり始めたきっかけは?

 

村田さん:最初に写真におさめたのは、2010年5月です。当時住んでいた家の近くに置いてあったプランターに、ふと目が留まりました。プランターは割れていて、もともと生えていたであろう植物を覆うように、どこからともなく居着いた植物が生えていて。その中に、狸の置物がドンと置かれていました。

「きれい」とは言えない鉢でしたが、なんだか気になって、ひとたび写真に撮ると他の場所でも、路上に置かれた鉢植えに目が留まるようになりました。

 

――なんで「路上園芸」に目が留まるようになったんでしょうか?

 

村田さん:いくつかの要因が重なっていると思います。もともと地方の出身で、小さい頃は学校から帰ると毎日、山の中で遊んでいました。大学も自然豊かな北海道で、キャンパス内には緑が溢れていました。

大学院進学に伴って上京し、卒業後は自然や植物と無縁なメーカーに勤めたのですが、2年ほどで退職。自然回帰のように、植物に関わることがしたいと思うようになりました。

最初は植物で空間装飾する仕事がしたいと思い、1年間グリーンコーディネーターの専門学校に通い、園芸装飾技能士という資格を取る傍ら、デパートの屋内庭園の植物を管理するアルバイトも経験しました。

路上園芸に目が留まるようになったのも、その頃です。

 

 

最初は、デザインや装飾と関係なく、暮らしに寄り添って営まれる園芸風景って肩の力が抜けていていいなと思いながら見ていましたが、次第に、鉢植えの中の植物だけでなく、鉢からはみだして成長する植物や、舗装のスキマなどで自生する植物にも目が行くになりました。植物を利用して計画通りに配置するのではなく、生き物として自由にのびのび育っていく姿に惹かれるようになったんです。

 

 

――その後も装飾の仕事は続けていたんですか?

 

村田さん:その後は実際に植物を扱うのではなく、魅力を発信する方に行こうと思い、SNSやイベント、執筆などで、路上園芸の面白さについて発信を続けてきました。

 

――植物のどういうところにグッと来るんでしょうか?

 

村田さん:枠におさまらないところですね。敷地や鉢からはみだすし、もともと植物なんてなかったアスファルトの舗装にも進出するし。植物を見ていると、まちのグレーゾーンや余白を感じるんです。

大学時代に中国に行った時、シャツをお腹の上までめくってお腹丸出しであるくおじさんや、籠を背負って高速道路を横切るおばあさんの姿にカルチャーショックを受け、中国が大好きになりました。枠に収まりきらない植物にも、おなじように生き物としてのたくましさを感じますね。

 

 

――はみでている姿に自分自身を重ね合わせている……?

 

村田さん:今までの自分を振り返ると、クラスでも家族の中でも、周りがきっちりしていても自分は同じようにできなかったりと、周囲から浮いていることが多かったので、路上で威勢よくはみだす植物を見ていると、「これでいいんだ」と気が楽になる部分はあるかもしれないです(笑)。

 

――ご自身で植物を育てたりもするんですか?

 

村田さん:路上園芸を観察していると、家主の方から植物を株分けでいただくことがあるので、そういったものが少しずつ増えています。実はお恥ずかしながら、育てる方はサッパリで……。庭の植物も「来る者拒まず」状態なので、スパルタな環境で生き延びていられる少数精鋭だけが残っています。

 

 

――まちの中で植物が成長しがちな場所は、どんなところですか?

 

村田さん:人がそんなに踏まない場所や水がありそうな場所には、わしゃわしゃと繁っていますね。たとえばベンチや郵便ポストの下や、ガードレールの下、道の端っこ、舗装のひび割れといった場所。なにもない場所に、苔といった極限でも生きられる植物が生え、ホコリなどと一緒くたになって、他の植物がやってくる土壌になります。スキマは天敵がおらず、水も光も独り占めできる環境というのを、本で読んだこともあります。

植木鉢の中でもともと植わっていた植物が枯れたあとに、どこからともなく種がやってきて勝手に生えている姿もいいな、と思います。

まちの環境であっても、隅々に目をやると、そうやって小さな規模で自然の営みが繰り広げられているのを実感します。

 

 

――見かけると特に興奮する植物ってありますか?

 

村田さん:「え、ここから?」というようなスキマから、びっくりするほど大きく成長している木を見ると興奮しますね。鳥が実を食べて、糞と一緒に落とした種がスキマに流れ、芽生えることがあるそうです。

あとは、鉢底を破ってはみでた根っこを見ると、見てはいけないものを見た気持ちが相混ざって、這いつくばってまじまじと観察してしまいますね。

 

 

――植物がはみだしがちな聖地はどこでしょうか?

 

村田さん:あたりまえかもしれませんが、暖かい場所。過去に訪れた中だと、台湾や沖縄はすごかったですね。そこまでいくと植生も違って、観葉植物として屋内でしか見たことないような植物が、屋外でプリプリと威勢よく育っていたり、電柱にガジュマルがしがみつくように育っていたり。植物が獰猛でした。

東京近郊だと、伊豆や熱海も見応えありましたね。

 

――観察したものはどうやってアウトプットしていますか?

 

村田さん:最初は携帯電話のカメラで記録のために写真を撮るくらいで、人に見せるつもりはありませんでした。写真が少し溜まってきた頃、ごく身近な友人向けにUstreamで「研究発表」したことがあって、面白かったとか、続けたら良いんじゃないかとか、思いがけない反応をいただきました。

ある時、思い切ってイベントをやってみたんですが、あまり手応えがなく撃沈。とある酒場で偶然居合わせたワンコイン占い師さんに「イベントが全然うまくいかなくて」と、占いとあまり関係ない相談をしたところ、「それはあなたの見せ方に工夫がないからだ」というまっとうなアドバイスをいただきました。

その後、一念発起してTwitterとInstagramで路上園芸の写真だけをアップするアカウントをはじめ、アウトプットの練習を重ねました。そうするうちに、同じ街歩き趣味や植物好きの色んな人と、SNSを介して知り合うことができました。

 

――具体的にはどういった点に工夫したんでしょうか?

 

村田さん:自分が面白いと思った点が伝わり、見た人に楽しんでもらえるよう、コメントや写真の構図に気を配りました。インスタグラムの場合は写真を一覧で見た時に、引きの写真や寄りの写真が並んで楽しげな雰囲気になったり、植物に詳しくない人でも楽しめるよう、見方や切り口の面白さを文章で伝えられるようにしたり、ハッシュタグや独自の造語を作ったり。

ハッシュタグの中では、「#はみだせ緑」「#植物のふりした妖怪」といったハッシュタグは特に反応が大きかったです。「こう見ると楽しいよ」という切り口を作って、それがアンテナになって、楽しむ輪が広がった感じがします。

そうやって試行錯誤しながらアウトプットを続けたことで、日本の方だけでなく、海外の方ともSNSを介して繋がれました。インスタグラムには、アメリカやフランス、南米にも、私と同じようにスキマから生える植物ばかり写真に撮っている人たちがいるんです。

インスタを通して知り合ったフランスのリヨン在住の植物仲間とは、いつか一緒に写真展をやりたいね、という話もしています。いつか実現できたらいいですね。

 

――初めての人が路上園芸を楽しむコツはありますか?

 

村田さん:とにかくキョロキョロして、はじっこやスキマなど、「まちの曖昧な場所」に目を向けてみると、様々な形ではみだす緑に出会えます。

植物と周りのものとセットで鑑賞するのもおすすめ。たとえばマンホールの穴から生えた植物を「蓋庭」と呼んで愛でている方々もいます。

たとえば「壁に張り付く植物をさがしてみよう」とか、テーマを持つのもいいと思います。

グッと来るものを見つけたら、自分なりの言葉やキーワードを当ててみると、どこがよかったのか客観視できます。

そうやって自分なりの楽しみ方を開拓していくと、今まで気に留めていなかったような場所にもどんどんと目が止まり、見知った場所を新鮮な目で楽しめるようになります。