フェンスのまっすぐした網目をケーブルの波線が横切る。カラフルな配色も楽しい(写真:村田あやこ)

 

真っ赤な塗装の隙間から生える緑の植物が、クリスマスカラー(写真:村田あやこ)

 

壁や床がつくりだす配色や、フェンスが描く線描、建物が経年変化で生み出す絶妙な風合い。切り取り方や視点の当て方を少し変えると、何気なく通り過ぎていたものの中にハッと心動かされるものが潜んでいるのに気づくことがある。

 

雨や風といった自然条件、様々な事情による建物の建て替えなどにより、まちの風景は常に新陳代謝を続けている。だからこそまちでは、美術館やギャラリーとは一味違い、偶然が生み出した、今ここでしか見られない「作品」で溢れている。

それらは必ずしも一般的に「美しいもの」「きれいなもの」といったお墨付きを与えられたものばかりではない。それゆえ、自らの視点で見どころを切り取ったり、魅力を言語化していくといった、ゼロから価値観を作り上げていく楽しさもある。

 

本稿では、身近に何気なく存在するものの中に、独自の視点で「美」を見出す達人たちをご紹介する。

 

 

働く小屋の、取り繕わない経年変化の美(小屋愛好会・遠藤宏)

 

遠藤宏・プロフィール

フォトグラファー。小屋愛好会世話人。https://www.instagram.com/endo__hiroshi/?hl=ja
https://note.com/endo_hiroshi

 

神社の例大祭の時にだけ扉が開き神輿が出る神輿庫。年に2日催される祭りの日以外はひっそりと神輿を格納する、ケの存在としての小屋(写真:遠藤宏)

 

漁港にかわいらしく並ぶ、小ぶりの小屋群(写真:遠藤宏)

 

個人商店の広告が貼られたバス停の待合所。バスが通勤通学、買い物の足として使われ、スーパーやショッピングセンターもなかった時代を証言してくれる小屋(写真:遠藤宏)

 

よく見ると、ビルの上に小さな小屋が建っている(写真:遠藤宏)

 

住宅地の真ん中に新しくバイパスが通ったことで、人の目に触れるようになった植木鉢用の棚小屋(写真:遠藤宏)

 

まちの中にある小屋はいつ建てられ、周辺の開発・発展の中でなぜ残ったか(あるいは取り残されたか)を想像するのも楽しみの一つ(写真:遠藤宏)

 

ー小屋のどのようなところに惹かれますか?

 

建物としての形状は自由で融通無碍でありながら、ものを保管収納するという役割をしっかりと果たして日々働いているところ。

 

ー小屋に「美しさ」を感じていますか?もしそうであれば、どのような点を美しいと思いますか?

 

美しさを感じます。

格好つけやおしゃれとは一切無縁ですが、取り繕わない美しさがあります。用の美、民芸の美ともつながっていると思っています。

経年変化による味わい深さは、歳を重ねて一層輝きを増す俳優のようです。

 

ー魅力を発信するためどのようなアウトプット方法を取っていますか?

 

SNS(インスタグラムツイッター)、ブログ(note)、ZINE、イベント参加(マニアフェスタへの出展)

 

ーアウトプットによって、ご自身や周囲の反応でどのような変化がありましたか?

 

仕事の周辺では出会えない様々なマニアと知り合えました。取引先も面白がってくれます。

 

ーはじめての方が小屋を楽しむためのコツがあれば、教えていただけないでしょうか?

 

意識していないので見えていないだけで、小屋は案外どこにでも建っています。

まちの中で小屋との遭遇率が高いのは、畑や田んぼなどが残っているエリア、または一昔前には田んぼや畑があったんだろうなと思える住宅街、そして路地裏や旧道沿い、小さな漁港などです。

そうかと思えば小屋は都市部のビルの屋上に物置として建っていたり、水上に釣船を係留するために浮かんでいたりと、地上以外の場所に建っていることもあります。こちらが思いもよらなかった意外な場所で出会えることも楽しみのひとつです。

観察時のポイントは、なぜそこに建っていて、何に使われているのか想像してみること。そして、ディテールを観察すること(塗られているペンキの色や経年変化による傷み具合、廃材利用の建材や建具で構成されているガタピシ感、屋根が吹き飛ばされないように重しとして置かれている廃タイヤなど)。所有者らしき人がいたら声をかけ、何が入っているのかなど話を聞いてみるのも面白いと思います。バス停の待合所内部に貼られた個人商店の広告板や神社の祭事案内を眺めるのも楽しいです。

気になる小屋に出会ったら、私は近づいたり遠目に眺めたりして、撮影しています。個人の所有物なので、敷地内に立ち入らない・さわらないようにしましょう。

 

 

まちに潜む宝石・ガラスブロック(ガラスブロックマニアック)

 

ガラスブロックマニアック・プロフィール

2017年、かねてから気になっていたガラスブロックの観察とinstagramへの投稿を始め、3年間で約2000枚を撮影。マニアフェスタvol.4、マニアフェスタオンラインに出展。ガラスブロックの少し懐かしい魅力を発信するため、また昔見たような風景や記憶を辿る手がかりを作れるよう日々活動中。

https://www.instagram.com/glass_block_maniac/

 

廃業した理容室のガラスブロックが、積み重ねた歴史を物語る(写真:ガラスブロックマニアック)

 

真夏の日差しを受けて水面のようにきらきら光る様子が美しい(写真:ガラスブロックマニアック)

 

模様が凝っているガラスブロック。ガラスブロックの存在を意識していなかった頃からなんだか気になっていた(写真:ガラスブロックマニアック)

 

アイビー柄のガラスブロックに、明かりがぼんやり透けている。台北の路地にて(写真:ガラスブロックマニアック)

 

ーガラスブロックのどのようなところに惹かれますか?

 

様々なタイプがあり、街でそれぞれ異なった表情を見せるところ。ガラスブロックを用いた建物は佇まいが素敵なことが多い点にも惹かれます。

 

ーガラスブロックに「美しさ」を感じていますか?もしそうであれば、どのような点を美しいと思いますか?

 

その瞬間にしかない光の反射が起きたり、年月を経た建物に使われているのを見ると美しさを感じます。

 

ーガラスブロックの魅力を発信するため、どのようなアウトプット方法を取られていますか?

 

Instagram(ガラスブロックの写真のみアップ)、Twitter(街歩き全般の話題)、ガラスブロックの写真のみ収録した冊子の制作

 

ーアウトプットによって、ご自身や周囲の反応でどのような変化がありましたか?

 

街をそれぞれの視点で観察するマニアの方々を知り、視野が広がりました。SNSの投稿に反応があるので、街歩きと生活に張り合いが出ました。友人からガラスブロックの写真が送られてくるようになりました。

 

ーはじめての方がガラスブロックを楽しむためのコツがあれば、教えていただけないでしょうか?

 

まずは街を歩くこと。近場でいいので、普段よりゆっくり歩いてみる。どんな街にもガラスブロックは大抵あるので、見つけたら近づいて眺める。少し離れて観察する。最初の印象を大事にする。

 

 

まちの「壁」は美しい(写真家・シガキヤスヒト)

 

シガキヤスヒト・プロフィール

音楽的な写真をコンセプトとしており、グラフィカルな風景、構図、色彩を繊細かつ美しい空間を写真として残すことを日々心掛けています。過去に2度、本家Instagramのおすすめユーザーとして紹介され、2万人以上のフォロワーを得ました。過去にマニアフェスタ、デザインフェスタなどの出展経験あり。

https://www.instagram.com/neijin0218/

 

(写真:シガキヤスヒト)

 

(写真:シガキヤスヒト)

 

(写真:シガキヤスヒト)

 

(写真:シガキヤスヒト)

 

ー壁のどのようなところに惹かれますか?

 

主に商業施設の壁に惹かれ、個人宅のようなありきたりな壁にはあまり惹かれません。

 

ー壁に「美しさ」を感じていますか?もしそうであれば、どのような点を美しいと思いますか?

 

壁への美しさを感じてシャッターを切っています。きめ細やかなテクスチャ―や経年劣化、幾何学模様など視覚的な美しさに惹かれます。

 

ー壁の魅力を発信するため、どのようなアウトプット方法を取られていますか?

 

SNS(InstagramTwitter)。ある程度まとまり次第ZINEや写真集を制作。いつか写真展を開催したいです。

 

ーアウトプットによって、ご自身や周囲の反応でどのような変化がありましたか?

 

壁を撮りはじめてからInstagramを定期的に投稿するようになりました。投稿を繰り返していく中で、似たように壁を撮る人ととの交流も生まれましたし、写真を通して普段の生活がさらに楽しくなっています。

 

ーはじめての方が壁を楽しむためのコツがあれば、教えていただけないでしょうか?

 

均等にタイルが揃った壁がおすすめです。細ければ細かいほど撮りがいがあります。撮影のポイントは、水平垂直を整え空間全体を撮ることです。

 

巨大でかっこいい鉄塔(鉄塔ファン・加賀谷奏子)

 

加賀谷奏子・プロフィール

鉄塔ファン。大学の卒業制作がきっかけで、12年ほど前から鉄塔をたどり、写真を撮り、冊子を作っています。景観の中で邪魔者扱いされて、見えないふりをされる鉄塔ですが、よく見ると美しかったりかっこ良かったりするのになと思いながら活動中です。鉄塔のことを知ることでもっと身近に感じられるのではと思い、鉄塔のことを易しくまとめた冊子を作ることが主な活動です。

電気新聞で鉄塔のコラム「鉄塔さんぽ」を連載中。安住紳一郎の天国出演。

https://www.instagram.com/tetto_fan/

 

鉄塔を真下から見上げると、空の中に鉄骨のまっすぐした線が描き出す結界を楽しめる(写真:加賀谷奏子)

 

近づけて、触れて、尚且つ真下から覗き込める鉄塔(写真:加賀谷奏子)

 

こんなに小さい鉄塔があるのか、という驚いた。形が太ったピエロみたいでかわいい(写真:加賀谷奏子)

 

日本一高い鉄塔。一本一本の鉄骨が頑丈そうで、スケールの大きさを感じる(写真:加賀谷奏子)

 

ー鉄塔のどのようなところに惹かれますか?

 

ずばり、巨大でかっこいいところです。

 

ー鉄塔に「美しさ」を感じていますか?もしそうであれば、どのような点を美しいと思いますか?

 

鉄骨と鉄骨の重なりが美しいと思っています。正面から見たの対照的な形も好きですが、斜め40度くらいの角度から見た形も好きです。

 

ー鉄塔の魅力を発信するため、どのようなアウトプット方法を取られていますか?

 

冊子『鉄塔ファン』やグッズの制作、Instagramやブログへの投稿、電気新聞でコラムの連載

 

ーアウトプットによって、ご自身や周囲の反応でどのような変化がありましたか?

 

冊子を読んでくださる方の中には実際に電力業界で働いている方も多く、会社見学や鉄塔の建設現場見学にお誘いいただくことが増えました。また、イベントに呼んでいただいたり、連載させていただいたりもしています。

また、「線」好きのつながりで電線愛好家の石山蓮華さんとゴムホース写真家の中島由佳さんと「いい線いってる夜」とユニットを組んで活動するようになりました。

 

ーはじめての方が鉄塔を楽しむためのコツ(見る際のポイント、見つけ方など)があれば、教えていただけないでしょうか?

 

一番簡単なのは、Googleマップで「変電所」と検索することです。ひとつ見つけるとそこからたどっていけるのが楽しいポイントです。

鑑賞については、私は真正面と斜め40度から見た鉄塔の姿がおすすめです。遠くから見るのもいいですが、ぜひ脚元から見上げてみて欲しいです。

 

 

まちに「美」は溢れている

 

電線、小屋、壁、ガラスブロック、鉄塔。

今回本稿でご紹介したものはどれも、まちを歩けば身近に目に入ってくるものだ。よく見るものであっても、「ああ、よくみるアレだな」という固定観念を取って、少し立ち止まって眺めてみると、じつは心響く要素が潜んでいる。

引っかかったものを写真で記録し、あとからその引っかかったポイントを言語化したり、どういう経緯でその状態に至ったのかを分析してみると、さらに発見があるかもしれない。

そうやって身近なものから何かを感じ取り引き出すアンテナの感度を高めたら、目の前の景色が一気に豊かになる。