2020年9月26日(土)、「マニアフェスタオンライン」主催イベントの一つとして、トークイベント「マニアが渋谷を再発見!これが、マニアのマイクロツーリズムだ」が開催された。

 

遠出が難しい今日この頃、近場を旅行・観光する「マイクロツーリズム」が注目を集めている。

すぐ近くにあるにも関わらず気にも留めていなかったようなものを、新しい視点で見たり体験するマイクロツーリズムは、まさにマニアたちが日々やっていることそのもの。

いわば、マニアはマイクロツーリズムのスペシャリストといっても過言ではない。

 

今回のイベントでは、マニアたちがそれぞれの観察対象物をとおして、渋谷の知られざる魅力を再発見し、身近な町を楽しむマイクロツーリズムの視点をご紹介した。

 

イベント全編の動画はこちらから→

 

「あそぶ」視点の強化と、ソフト面の充実の必要性

 

イベントの舞台となったのは、渋谷にあるイベントスペース・東京カルチャーカルチャー。

東京カルチャーカルチャーの母体である東急グループは、現在渋谷駅周辺の大規模な再開発を手掛けている。

渋谷に対して、どのような課題を抱えているのだろうか。

 

「東急では、100年に1度の再開発として大規模な渋谷駅周辺の再開発工事を行なっています。渋谷ヒカリエをはじめとしたさまざまな施設を開業し、オフィス床の拡大と商業施設の充実を図ってきました。

 

このように、ハード面に関しては様々な意見のもと充実させてきたものの、そこで行なわれるイベントや興行などのいわゆるソフト面については、まだまだ整備が追いついていない状況です。

 

また、渋谷への来街者のターゲットとして、長らくIT企業で働くクリエイティブワーカーの方々に重点を置いてきたのですが、昨今のコロナ禍の影響もありオフィス需要が減少しており、このような層の方々は来街の機会が減っていくのではないかと感じています。

 

それとともに、当社の新入社員などに渋谷についてヒアリングしても「普段行きにくい街」などの声が年々増えており、トレンドを牽引する若年層から見て、渋谷は魅力的に映っていないようです。

 

これらのことから、これからは「はたらく」という視点もありながら「あそぶ」の視点を強化して渋谷を魅力のある街にしていく必要があると考えています。そういった意味でもソフト面、大規模な興行から新人のイベントまで幅広く充実させていくための仕組みや支援の方法を整えていきたいです。」

(東急株式会社 エンターテインメント戦略グループ・星野ゆり)

 

 

今回のトークイベントでは、そんな東急グループが課題としている

・あそぶ視点の強化

・ソフト面の充実

という観点から、3名のマニアが、それぞれの観察対象物を通して渋谷の知られざる魅力を再発見するとともに、身近な場所を楽しむマイクロツーリズムの視点をご紹介した。

 

今回のイベントに登壇したマニアは、下記のメンバー(敬称略)。

 

 

●藤田泰実(路上に落ちてる物マニア)
路上に落ちてる物(オチモン)を写真に撮ってる収集家。
食べかけのホットドックから便座まで心に引っかかったオチモンを撮り続け、その背景を空想して物語にしている。

 

●中島由佳(ゴムホースマニア)
ホース撮影歴10年以上。いままでに撮影したホースの数、約3000本。
世界には美しいものがたくさん溢れていることを伝えるため、ゴムホースの写真を撮影している。

 

●天谷窓大(エクストリーム出社マニア)
「エクストリーム出社協会」代表。エクストリーム出社とは、早朝から観光、海水浴、登山などを楽しんで、何食わぬ顔で定時までに出社をキメるエクストリームスポーツ。出社前でも旅はできる。
著書:サラリーマンは早朝旅行をしよう! 平日朝からとことん遊ぶ「エクストリーム出社」 (SB新書)

 

●松澤茂信(珍スポットのマニア)
東京別視点ガイド編集長。 日本中、世界中の珍スポットを1000個以上めぐり、サイトで紹介している。
2016年に観光会社「別視点」をたちあげる。

 

さらに、渋谷を知り尽くしたコメンテーターとして、下記の2名をお迎えした(敬称略)。

 

星野ゆり(東急株式会社エンターテインメント戦略グループ)
東急で、渋谷の「街ブランディング」に携わる。個人としては「名探偵コナンマニア」であり、劇場版コナンのイントロクイズを一人でやることも。

 

●宮尾亘(東京カルチャーカルチャー・イベントプロデューサー)
「イベントマニア」として、東京カルチャーカルチャーで年間200本近くのイベントを手掛ける。渋谷に関するイベントも多く企画。

 

 


 

 

第一部 3つの切り口で、身近な街を楽しむ

 

イベントの第一部では、「まちの中の美を愛でる」「物語を空想する」「まちを舞台にする」という3つの切り口から、マニア3名の視点をプレゼンし、各自の視点で渋谷という街を切り取った。

 

 

■視点1 まちの中の美を愛でる

 

1つ目の視点は、「まちの中の美を愛でる」。

プレゼンターは、ゴムホースや料理店のフグなど、写真家として、街中で何気なく見過ごすものの美やおかしみなどを切り取る中島由佳さん。

生活の行動圏内でどうやって面白い光景を発見しているのか、そして渋谷をどう再発見したのか。中島さんの街の見方をプレゼンしていただいた。

 

中島:以前住んでいた街で、通勤途中に通りがかる自転車置場にいつも置いてあったチャイルドチェアと、なんとなく目が合う気がしていたんです。

 

 

中島:なんとなく、顔がついてる感じがしませんか?穴が目で、下の赤いシールが口で、横が手で。毎朝目があうので、「行ってきます」と心のなかで呼びかけていました(笑)。

 

 

 

自転車用のチャイルドチェアは、子どもの顔に見えるものが結構あるという中島さん。

中島さんはこんなふうに、多くの人が見過ごしがちなものを独自に「見立て」、写真に撮っている。

 

 

 

中島:椅子がヘナッと曲がってもたれかかっていました。普段は疲れた人を支える立場の椅子ですが、使われているうちに疲れて、何かにもたれかかりたい時があるんだなって。

 

松澤:ドラマを感じますね。

 

天谷:僕、体重が110キロあるので、椅子に座るとよくこういう状態になっちゃうんですよ。

 

松澤:椅子を疲れさせる犯人だ。

 

中島さんの「見立て」を聞きながら写真を見ると、無機質に思えたものにもキャラクターが浮かび上がってきて楽しい。

 

 

 

中島:この写真は、渋谷で撮影した、電源タップを覆うカバーです。下の方の子が手を伸ばしているように見えます。こういうふうに、ものの形から人のパーツに見えるものを見つけて撮ったりもしています。

 

 

 

中島:これは上に横たわっている薬剤が、ライブ会場で倒れちゃった人に見えました。人が多かったので、上を伝っていくしかなかったんでしょうね。

 

 

 

中島:一つのパイロンから下に2本の棒が伸びています。この棒が、人間関係を表す線に見えて。TVのお見合い番組のワンシーンのように、下の両側のパイロン2つが、奥のパイロンを指名したっていうシチュエーションです。

 

こういうふうに、ちょっとしたものの配置も見方を変えることでストーリーが見えてきて、何気ない風景が急に面白くなる。

中島さんは時に、そこに自分自身を重ね感情移入することも。

 

 

 

中島:点字ブロックが一つだけずれていました。周りの多くの人が有益なものだけを見ている中で、アウトローなものの見方をする自分は、この一つだけずれた点字ブロックと同じだな、と思いました。

 

「多様な生き方が求められ、自分らしい生き方を見つめ直す人が多い今の時代。私みたいな人でも元気にやっているので、生き方に悩む人がいたらぜひ参考にしていただきたい」と語り、締めくくった。

 

 

■視点2 物語を空想する

 

2つ目の視点は、「物語を空想する」

プレゼンターは、「落ちもん写真収集家」として、2014年から道に落ちているものを「落ちもん」と称し写真を撮っている藤田泰実さんだ。

 

 

藤田:地球上に重力がある限り、「落ちもん」は必ず発生します。右上のフランクフルトを見た時、一口かじったあとに腹痛が襲ってきて、投げ捨てて走って帰った人がいたんじゃないかって思いました。

 

 

 

藤田:パンが5mおきに落ちてたこともありました。3枚目では、パンが消滅してるんです。給食で残してパンを残した子が、ヘンゼルとグレーテルみたいに落として帰ったのかなって。

 

 

 

藤田:これは、高架下に落ちていた割れたメガネです。この人、ちょっと前に怖い人に襲われたんじゃないかって。

 

藤田さんはこうやって、「落ちもん」の背後にある人間ドラマを妄想し、独自のストーリーを付けている。

一方で、落ちているものと地面とが作り出す偶然の美しさを楽しむことも。

 

 

 

藤田:私は落ちもんの写真を撮る時、真俯瞰か真横から撮影するのがマイルール。こうやって色面構成を考えてトリミングすると、地と図の関係が生み出す美しさが見えてきます。落ちもんは、目でも楽しめるっていうことを伝えたいですね。

 

背後にある人間ドラマ、そして地と図の構成美。

さらに藤田さんによると、たとえば夏はサンダルの裏側、秋や冬はイベントグッズや風邪薬など、落ちもんにも季節性があるそうだ。

コロナウイルスの影響ででマスクが大普及した今年は、マスクの落ちもんが目についたそう。

 

 

 

藤田:今年はとにかくマスクが大量に落ちていました。去年までは使い捨てマスクが主流だったんですが、今年は布マスクが入ってきたのが印象的でしたね。

 

こうやって、落ちもんから時代性も見えてくる。そんな藤田さんが、落ちもん目線で渋谷を見ると何が見えてくるのだろうか。

 

 

 

藤田:今年はマスクとともに、なぜかしじみやアサリの殻もよく落ちていました。この写真は、渋谷。自粛モードで故郷になかなか帰れないから、みんなぬくもりを求めて貝の味噌汁を飲んでいるんじゃないかって。

 

松澤:路上で、殻付きの本格的な味噌汁飲んでる人がいるってことですか(笑)。

 

天谷:やっぱり殻から取らないとなって。

 

 

 

藤田:これも渋谷の駐車場です。大量のエロDVDと小学生の教科書が、一緒に落ちていました。小学生の男の子がある日お父さんの押し入れを開けたら、大量のエロDVDを発見して、ショックでグレちゃったんでしょうね。

今年、同じ場所に行ってみたら…

 

 

 

藤田:見てください、ポケモンのカードが大量に捨ててありました。3年経って中学生ぐらいになった少年が、「俺も我慢することはないんだ。欲望のままに生きていこう」って思ったんじゃないかって。モンスターを生み出してしまったのかもしれません。

 

松澤:同じ人なんですね(笑)。

 

人の無意識が現れる「落ちもん」。

藤田さんの目線で渋谷を見たら、夢と現実の間にある、渋谷のリアルな表情が見えてきた。

 

 

視点3 まちを舞台にする

 

身近な街を楽しむ方法は、なにも視覚だけではない。五感による体験を通して街を楽しむこともできる。

3つ目の視点「まちを舞台にする」では、自宅から会社までの通勤経路を「エクストリーム出社」と名付け楽しみつくす天谷窓大さんにお話を伺った。

 

 

天谷:「エクストリーム出社」とは、家から会社に行くまでの通勤経路を使って、いかに通勤経路で遊ぶかというスポーツです。これを始めた当初、とにかく会社に行くのが憂鬱で、まっすぐ会社に行くのも嫌だった。考えつく限り遠回りして、会社に行ってやろうと思って始めたんです。

 

天谷:当時住んでいたのは、足立区の綾瀬、会社は新木場。普通にいけば40〜50分の道のりなんですが…

 

 

 

天谷綾瀬から湘南の海岸を経由して出社しました。

 

松澤:スイカ割りまでしてるじゃないですか。

 

 

 

天谷綾瀬から24時間営業の焼肉屋を経由して出社したこともありました。朝の情報番組を見ながら焼き肉を食べて。こうやってワンクッション挟むことで、「会社にまっすぐ行くんじゃなくて、焼肉屋帰りにたまたま会社に寄ったんだ」って思えるんです。

 

天谷さんはこれ以外にも「箱根の温泉」経由の出社「相模湖」経由の出社も試したそう。

いかに会社から遠ざかれるかを試みた結果…

 

天谷綾瀬から静岡を経由して出社しました。

 

 

 

宮尾:だんだんと、犯人のアリバイづくりみたいに見えてきますね。

 

天谷:西村京太郎を超えたかった。この日は東京駅の駅前で、朝10時から遅刻厳禁の会議に出席予定でしたが、朝7時の時点で新大阪行きの新幹線に乗っていました。

 

 

 

天谷:静岡に朝8時について駅そばを食べて。

 

 

 

松澤:8時44分…見てるこっちがドキドキしますね。

 

 

 

天谷:東京駅に着いたのが9時47分。そこからダッシュで出社しました。さすがに「静岡でそばを食べて遅刻しました」って、口が裂けても言えないですからね。

 

 

 

天谷:最終的に、9時59分30秒に出社しました。こうやってエクストリーム出社した日は、「完全犯罪を達成した人」みたいな気持ちになります。痕跡も消したしアリバイもばっちりだって。

 

こうして「エクストリーム出社」の魅力を発信してきた天谷さんだが、自身がフリーランスとして独立し出社の必要がなくなったことや、コロナ禍で在宅勤務をする人が増えたことにより、現在エクストリーム出社存続の危機に立たされているという。

 

天谷:そこで、「エクストリーム出社の別視点化」として、エクストリーム出社の概念を利用して、渋谷を舞台に何か面白いことができないかな、と思いました。題して「誰もいない早朝にこっそり楽しむソーシャルディスタンス旅行 in 渋谷」。朝の渋谷は誰もいないので、究極のソーシャルディスタンス。誰もいない朝の渋谷を楽しもうという提案です。

 

松澤:朝の渋谷、開いているお店はあるんでしょうか?

 

天谷:それが意外とあるんですよ。

 

過去に実際に試した事例から、「早朝落語」「エクストリーム朝食」「早朝ビールフェス」など、誰もいない朝の渋谷でこっそりソーシャルディスタンス旅行を楽しむ方法をプレゼンいただいた。

 

 

 

 

天谷:日常をぶっ壊すことで、新しい景色が見えてくる。今、なかなか移動が難しい状況ですが、じゃあ時間軸をぶっ壊せば新たなマイクロツーリズムが生まれるんじゃないか。そう思っています。

 

こうして第一部では、三者三様の視点から渋谷の楽しみ方をプレゼンしていただいた。楽しみ方を聞くと、視点が変わり、自分でも試してみることで日常が変わる。

 

 

第二部 みんなで物語を空想してみよう!

 

第二部では実践編として、第一部でも取り上げた「物語を空想する」という視点を登壇者で実践。落ちもん写真収集家の藤田さんが、渋谷で撮影した落ちもんの写真に、登壇者それぞれが即興でストーリーをつくり、朗読した。

 

 

藤田さんのアドバイスは

・「男になりきる」「女になりきる」など目線を決めること。

・「置いたのか」「投げ捨てたのか」といった、そこに至るまでの落とし主の気持ちを想像すること。

そして何よりも大切なのは「折れない心」。

 

藤田さんがお手本として朗読したあと、登壇者各自が即興の妄想を発表。

「炎上系YouTuber」「ミュージシャンを目指して渋谷の居酒屋でアルバイトを続ける青年」など、様々なストーリーが誕生した。

 

 

こちらはぜひ、本編をじっくりご覧いただきたい。

 

松澤:一皮むけた気持ちになれたました。何も心揺さぶられず訪問営業できるようになれそう。

 

宮尾:怖いものがなくなりました。今だったら皆の前で風呂に入れそう。

 

 

視点のインストール+実践で、日常が広がる!

 

最後に登壇者それぞれが感想を述べ、イベントは終了となった。

 

天谷:いろんな視点が加わると、日常が何倍にも広がりますね。

 

藤田:第二部では、自分が普段一人でやっている試練に、皆さんを道連れにしてしまいましたが、素晴らしい妄想が聞けてよかったです。

 

中島:「焼き肉を食べたついでに会社にいく」という天谷さんのお話を聞いて、一日の使い方はこういう捉え方もできるのか、という気付きがありました。

 

宮尾:自分の表現を表に出すのは照れくさかったりするけれど、それを超えてみんな表現しているんだという心意気を体験できたことが嬉しかったです。演者さん側の気持ちに立てる機会となりました。

 

星野:様々な視点があるなと感動しました。

 

東急株式会社では、POPカルチャーをテーマに、東京カルチャーカルチャーをリアル会場として、リアル開催&オンライン配信のハイブリッド型開催をするイベント企画の公募プログラム「渋谷渦渦 ~あつまれ!SHIBUYAイベントチャレンジ~」を2020年10月23日(金)~11月23日(月・祝)までの間、東京カルチャーカルチャーのHP上にて募集します。 

詳細は10月23日以降、渋谷渦渦公募ページよりご確認ください。