スーパーのチラシ、週刊誌の表紙、ポイントカードなど、生活の中でごく身近に見られるものを作品にしているのが、日本在住の台湾人アーティスト・LEE KAN KYO(李漢強)さんだ。

李さんの視点を通すと、日常的なそれらのモチーフに潜む、新鮮な魅力が見えてくる。

 

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LEE KAN KYO(李漢強)さんプロフィール

台湾人アーティスト。東京造形大学大学院(造形専攻)修了。幼い頃から見ていたTV番組で、日本のエンターテインメントに魅力を感じ、2007年来日。スーパーのチラシ、週刊誌、ポイントカードなど消費社会の現象に着目した創作で、東京のみならず台湾、韓国、中国などに活躍の場を広げている。第10回グラフィック「1_WALL」グランプリ受賞
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構造美を解明するため、分解して組み立て直す

 

― 日本の美大に進学されたと伺いました。学生時代はどんな作品を制作されていたんですか?

 

LEE:東京を歩いていて気になったモチーフを作品にしてました。キューピーとか、PASMOの人とかそういうの。あとチラシもそのころからずっとやってる。

 

東京ワンダータワー(2010年)。東京の街中でよく目にするアイテムが元となっている。

 

▲家電量販店のチラシをモチーフにした作品(2011年)

 

― 日本人が日常的に目にしているものですね。自分からすると、こういったチラシは身近すぎて、わざわざ意識すらしないんですが、どういうところに面白さを感じたんでしょうか?

 

LEE:いろいろあるだけど、情報つめこみすぎてるのに綺麗につくられてるところかな。
完成されたものだけみると、完成度すごく高くて綺麗。デザインした人間の気配ないです。

わたしのやり方、チラシの要素を一個一個ばらばらにしていきますので、このチラシがどういう構造でつくられたか理解できます。

 

 

▲スーパーマーケットのチラシ。電話番号まですべて、実際の情報が洩れなく描き込まれている。

 

▲衣料品店のチラシ。文字のレイヤーだけを抜き出したもの。

 

▲衣料品店のチラシ。すべてのレイヤーを描き出したもの。

 

― 最初にこれを綺麗と思った視点も面白いです。自分だったら最初にチラシをみても綺麗って気づけたかなって。それを追求する方法として、分解して模写するという方法も独特ですね。

 

▲「TVガイド」や「女性セブン」。実在する週刊誌の表紙が描かれた作品。

 

― LEEさんは週刊誌の表紙も絵にされていますよね。

 

LEE:WEBmagazine温度の「ジャケがいい」という連載のために描き始めました。

 

― LEEさんの作品を通すと、デザインとしての魅力やポップさが際立ちますね。日本のこともよく分かっているけれど、日本人よりも少し客観的な目線で見てらっしゃる感じが新鮮です。

 

 


▲週刊誌の表紙が描かれた作品

 

― そういえば、表紙の人物の黒目を書いていないのは、何か理由があるんですか?

 

LEE:なるべくフラットにしたいのかもね。目が入ると「この人は誰?」の問題になっちゃう。

私にとっては、その人が誰かはどうでもよいこと。表紙に写った本人はここにはいない、という感じで目を抜いているんじゃないでしょうか。

 

 

財布に入ったカードから人生が見える

 

― LEEさんはポイントカードも作品にされてますよね。

 

LEE:はい。イベントの来場者に、実際に持っているカードを出してもらって、その場でそれをもとにした私のリーカードを発行する。

免許証、IDカード、銀行カード、保険証、クレジット、交通カード、ポイントカード、メンバーズカード、色々作りました。

カードにはその人が現れています。

 

 

▲実際に持っているカードをモチーフに「リーカード」を発行するプロジェクト

 

― 総勢何人くらい作ったんですか?

 

LEE:4年で400人以上になりました。

 

― そんなにたくさん!

 

LEE:最初に会った時はカップルだった人たちが結婚したり、関係性が変化する場合もあります。その時々で使うカードから、人生の段階が見えてくる。

 

― 「リーカード」はどのように使われるんですか?

 

LEE:リーカードはLEE KAN KYOの会員カード。イベントに持ってきたらポイントを差し上げて、5ポイントたまるともう一枚カードを作れます。本来カードはポイントを貯めるためのものなんですが、リーカードは、カードを増やすためのカード。何枚か持っている人もいます。

 

― LEEさんと、カードの持ち主の方との関係性も見えてきますね。

 

LEE:そうですね。カードの友が、真の友(笑)

 

― カードも、平面に色々な情報が整理されて入っているところに関心があるんでしょうか?

 

LEE:「なぜ財布にそんなにカードが入っているの?」というのが最初の関心でした。

ヨドバシカメラに行ってカードを忘れるたび、ポイントを後から合算できるからと言われてカードをもう一枚作って……。

その結果、私はヨドバシカメラのカードだけで5枚も持っています。

この社会にとってカードが大事な存在、と気づいたのがプロジェクトのきっかけです。

上海やソウルではカードは使わない、財布すら持たない。日本はまだまだカードたくさん使ってます。

 

― 日本独特の文化なんですね。お客さんがお得になる、みたいなお店側の親切心で作られていたりもしますよね。

 

LEE:他の国だとカード出すよりもその場で値切るの方が早いかも。

 

― なるほど、国民性の違いも反映しているのかもしれないですね。日本人にとっては、安くしろと強く言わない代わりに、お店と客がお互いに配慮しながら値引きできる方法が、ポイントカード。

 

 

テレビチャンピオン、ASAYAN、TK・・・身近だった日本文化

 

― 現在は日本に住んでいるんですか?

 

LEE:はい、12年間住んでいます。今の制作の拠点は日本。

 

― 日本に来たきっかけは?

 

LEE:留学のためです。台湾で美大を卒業後、東京造形大学に入りました。

 

― なぜ日本の大学で学び直そうと思ったんでしょうか?

LEE:グラフィックデザインの分野で日本のデザインはレベルが高く、留学しようと思ったときにも一番近いのが日本というのが大きな理由でした。平面を学ぶ人たちが必ず行く素敵なギャラリーも、日本にはたくさんあります。今は台湾にもそういった場所が大分できていますが、十数年前までは全然ありませんでした。

 

 

 

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▲LEEさんはInstagramに、野菜ジュースを飲む写真を毎日投稿している。

 

― 来日前から、日本の文化に触れる機会はありましたか?

 

LEE:はい。わたしは日本の文化の中で育ったといってもいいくらい。

小さい頃から、テレビチャンピオン、ちびまる子ちゃん、ドラえもんなど、日本のテレビ番組を日常的に見ていました。

ASAYANは、前身の浅草橋ヤング洋品店の頃から見てましたし。当時はTK(小室哲哉)もすごかったですよね。

 

― TKお好きなんですか?

 

LEE:大好き!ビルの上で歌って踊ってるのをヘリコプターから撮っていて「この人たち、すごい!」とわたし興奮しました。

そういうのを見るたび、日本はどんな国なんでしょう?と夢が広がって、いつか実際に行ってみたいと思っていました。

 

― 台湾と日本とで違いを感じる点はありますか?

 

LEE:色々違いますが、やっぱり人が違いますね。日本人と台湾人、発想が違う。

 

― 台湾の街を歩いていると、路上の風景がすごく面白いです。街中の園芸とか、都市部であっても周りの風景を自在にカスタマイズしている人が多いですよね。

 

LEE:日本だとテリトリーがはっきりしていて、ちょっとはみ出ていると誰か怒るかもしれない。

台湾、そのテリトリーはまだグレー。調整可能ですので、場面場面で変えていきます。

 

― 日本と台湾だと、どちらの方が活動しやすいですか?

 

LEE:12年住んでいるので、だいぶ日本の生活には慣れたかな。いま台湾に行って、路上にはみ出してる鉢植えを見たら「もうちょっと右に寄せてよ」と思うかもしれない。

 

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LEE KAN KYO/李漢強
HP https://www.leekankyo.com

 

聞き手
松澤茂信(東京別視点ガイド)、村田あやこ(路上園芸学会)

 

執筆
村田あやこ