東京オリンピックに向けて年々盛り上がりを見せている卓球。実はその奥には深淵なるマニアの世界が広がっていた!
「卓球で社会をつなぐ」をミッションとして、スクールから食まで幅広い事業を展開する株式会社スヴェンソンスポーツマーケティングの駒井亮さんにお話を伺った。

 

 

20代の女子大生と70代のシニアが戦えるスポーツ!

 

ー 卓球の専門企業ということですが、どういう事業を展開されているんでしょうか?

 

駒井亮さん(以下、駒井):「卓球で社会をつなぐ」をミッションとし、3社協同で卓球関連の事業を行っています。

卓球用品の製造・販売を行うメーカー(VICTAS)、飲食しながら卓球ができるレストラン(THE RALLY TABLE・ping-pong ba)や、卓球スクール(TACTIVE)、オフィス向け卓球台(T4 OFFICE)、卓球愛好家向けの情報サイト(T-PLUS)など、幅広く事業を展開しています。

 

 

 

ー 「卓球で社会が繋げたぜ」って実感した瞬間はありましたか?

 

駒井:レストランのお客さんとして来ていた知らない人同士が、卓球を一緒にプレーして仲良くなることがあります。海外の方とコミュニケーションが生まれることも。

 

ー 言葉が通じなくても仲良くなっちゃうんですね。

 

駒井:卓球台を導入したオフィスに取材した時、昼休みに仲良くプレーしている中の一人が、今日入社した人だったってこともありました。

卓球は言語ではないコミュニケーション。ラリーのやりとりで心の距離が縮まります。外部の方を呼んで社内パーティー&卓球大会という形で、外部との繋がりを増やしている企業さんも多いです。

 

ー 競技だけじゃない楽しみ方があるんですね。

 

駒井:卓球は、下は3歳から上は90代の方までできるんですよ。

 

ー それだけ幅広い年代の方が、そこまで障壁もなく入ってこれるスポーツってなかなかないですね。

 

駒井:一般的にスポーツは、体力の衰えとともに一線から退いて自分ではやらなくなってしまう場合が多いですが、卓球は歳を重ねても自分でプレーできるので、マニアとしての息の長さみたいなのはありますね。

この前は大阪で大会に出たんですが、60歳くらいの方に負けました。

 

ー 年齢は全然関係ないんですね。

 

駒井:めちゃくちゃユニバーサルなスポーツです。この間の大会では、20代の女子大生と70代のシニアの方が戦っていました。

技でも勝てるし、勝ちじゃなくても楽しめるところが面白いです。

 

 

ネットの掲示板で情報交換していた選手時代

 

ー 駒井さんご自身、もともと卓球をされていたんですよね。

 

駒井:はい。大学もスポーツ推薦で行きました。

 

 

ー 「用具マニア」でもあったとか。

 

駒井:卓球は用具の種類がたくさんあるんです。ラケット本体の素材や厚さだけでなくて、上に貼るラバーも色んな種類があるので、組み合わせのバリエーションが何千種類もあるんですよ。

スキルと用具の組み合わせで戦い方が決まるので、色々な用具を試していました。

 

 

 

 

ー いい用具の情報は、当時どこで入手していたんでしょうか?

 

駒井:強いチームだと、選手同士やOB、メーカーとの間でコミュニティがあったんですが、僕は弱小校でそこには入れなかったので、インターネットの掲示板で知らない人と情報交換していました。

当時はインターネットの黎明期で、「キリ番ゲット」「カキコありがとうございます」みたいな世界観の中で。自分でもホームページビルダーで掲示板を作っていました。

訪問者は1日3人・・・ほぼ自分でしたが。

 

ー どういう情報を交換していたんですか。

 

駒井:用具や選手のほかに、戦型の掲示板もありました。

特殊な戦型の人はネット上にしか仲間がいないから、結束力が強くて活発に情報交換されていました。そこでマニアの芽が出始めましたね。

 

ー 用具で戦略ごと変わるんですね。

 

駒井:用具と戦型にその人の思想が現れています。それどころか、戦い方でせっかちな人やマイペースな人などパーソナリティーが分かることもあります。

その人の性格から戦型当てあいっこをしたりもします。

 

ー 卓球や用具への知識や熱量は、今の仕事にどう生かされていますか?

 

駒井さん:仕事で卓球好きな方と話すときに、同じ目線までいけることですね。

スタッフやコーチの中には、僕が卓球をしていたことを知らなかった人もいるんですが、昔の試合であの選手が、あのラバーが、とか話題についていけると「経営側の人だと思っていたけど、実は卓球のマニアなんですね」って相手も心を開いてくれます。

 

 

歴史から自作ラケットまで。幅広い卓球マニアの世界

 

ー 卓球界隈には、用具マニアのほかにどういうマニアがいらっしゃるんですか。

 

駒井:歴史マニア、試合の写真や動画マニアなんかがあります。

用具マニアの中に「粒高」(つぶだか)っていうツブツブしたラバーを偏愛しているマニアもいます。

 

ー 「粒高」マニア!

 

駒井:粒の先が細く、相手の回転を殺すラバーなんです。

うちのコーチに「粒高」で日本トップレベルの人がいるんですが、この間高松で講習会を開いたところ、彼に教えてもらうために全国から参加者が集まりました。

 

ー 「粒高」界隈があるんですね。

 

駒井:正統派のプレースタイルではない勝ち方を志向する特殊な戦型なので、メインストリームじゃないアウトサイダー同士みたいな結束力があります。

 

ー 曲者揃いなんですね。

 

 

駒井:ほかにも、あらゆる試合に出没する「選手の追っかけ」マニア、東南アジアやアフリカとか、まだあまり卓球が広まっていない国に卓球しに行く「現地卓球」マニアもいます。

 

ー パチンコの旅打ちみたい!

 

駒井:市販のラケットじゃ満足できず、自分で木から削り出してラケットを作る人もいます。ラケットケースも、自分で図面を引いて3Dプリンターで作って。

ただ、自作のラケットは公認じゃないから試合には出られないんですが・・・。

 

ー 卓球だけでもいろんなマニアがいるんですね。

 

駒井:マニアフェスタVol.3では、卓球界の色々なマニアを集結させたいと思っています。

マニアフェスタの中の卓球マニアフェスタ、みたいな感じで。

 

 

勝ち負けだけじゃない楽しみ方

 

ー 今後取り組まれたいことはありますか。

 

駒井:卓球のように受け皿が多いカルチャーってあまりないと思うんです。いろんなハマり方を提示することで好きな人が増えて、競技で強くなれなくて辞めちゃう人を減らしたいと思っています。強くならないとだめだ、という風にはしたくないんです。

強くなることもハマり方の一つですが、用具を研究することも、木から削り出してオリジナルのラケットを作るのも、卓球のハマり方だっていう感じに変えていきたいんですよね。

どうしてもまだまだ競技スポーツの色が濃いですが、勝ち負けだけの評価指標だけだと息苦しいので。

 

 

ー 前回マニアフェスタVol.2にもお越しいただいたんですよね。どんな印象でしたか。

 

駒井:まず会場に入った時の熱量に圧倒されました。みんなの熱が発散されていて、すごいなって。

展示者の方とお話ししていても、どっちが詳しいとか、あっちのブースよりも目立っているとかじゃなくて、ちゃんとオンリーワンが揃っている感じがあって。

それってナンバーワンの価値観が強いスポーツ業界において、もっと必要な雰囲気じゃないかな、と思いました。

 

ー スポーツってなると、強いのがいいっていう風潮が強いんでしょうか。

 

駒井:そうですね。強い人にはリスペクトも集まります。勝ち負けも要素としてはあるんですが、それだけじゃないやり方や関わり方があってもいいかな、と思います。

 

ー 駒井さんは今後どういう立ち位置にいきたいですか。

 

駒井:マニアの価値観や嗜好が好きなので、翻訳者としてその面白さを伝える役割になりたいと思ってます。

「粒高」ってこういう面白みがあって◯◯に例えると□□、という風に卓球のコアな楽しみ方を抽象化して言えるようになれば、これから卓球を始める人たちと昔ながらの人たちとが混ざれると思うんですよ。

 

ー とことん「卓球で社会をつなぐ」ってことなんですね。

 

 

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(※株式会社スヴェンソンスポーツマーケティング&卓球マニアはマニアフェスタVol.3に企業出展されます!)

 

 

執筆
村田あやこ(路上園芸学会)